森の木々が「燃料の薪」に変わる道のり:この先、何十年・何百年とキャンプを楽しめるように私たちが目指すもの
キャンプ場スタッフのつぐつぐです。
今回は、キャンプ場で販売している「薪」がどうやってできるのかと、2021年グッドデザイン受賞のカギとなった「持続可能な山とのおつきあい」が私たちキャンプ場とどんな関わりがあるのかを説明します。
(2021年11月7日に公開した内容を再編集しました)
薪=森のかけら
机や椅子、フローリングや柱、まな板におはし…日常の中に「木」でできたものはたくさんあります。
当たり前だけど木製のものはもともと森にある木でした。でも、木製品を見て、パッと森が思い浮かびますか?
いざ手元につるつるの、まっすぐの、ベージュに近い淡い茶色の物体を目にすると、どうしても「緑が茂る木」とは結びつかない感覚があります。
木造住宅も、薪も、もともとは森の一員だったんです。忘れがちですが、忘れてはいけない大切なことですよね。
▲ 木材標本、木の名前がわかると「森だったころ」を想像しやすくなります
「森の植物」から「燃料の薪」へ
北軽井沢の冬は長く、とびきり寒い。その代わり春には、厳しい冬を耐え抜いた植物たちが一斉に芽吹きます。
木も春先に地面からぐんぐん水を吸い上げます。ごくごく水を飲む姿は目に見えませんが、1晩で4ℓタンクがいっぱいになるほど。
▲ 春先に白樺樹液を採取中…
冬には凍裂(凍って幹が裂ける)を防ぐため、葉っぱを落とし吸い上げる水の量を減らします。この木々のおやすみモード「11月中旬から春先まで」が木を伐るのに適した時期です。
萌芽更新
木を伐ったらその木は死んでしまうのでは…と思いますよね。実際は、切り株からたくさんの芽が出て(萌芽)、そこからまた成長します。
小さな芽は、30年経てば立派な幹に育ちます。今、私たちの周りにある立派な木も、60年ほど前に萌芽から育ったものかもしれません。
私たちとは全く異なる時間軸で、木は生きています。とってもたくましい。
自然乾燥は2年かかる
伐ったばかりの木の含水率は50%以上あります。しけっていると火がつきにくいのはイメージつきますね。これじゃ、煙ばかりで火がつかない。
薪としての理想は、含水率15~20%。自然にここまで乾燥させるには2年ほどかかります。
▲ 薪ストーブがある家庭は、今年燃やす分と来年燃やす薪をストック。自然に乾燥するのを待ちます
スウィートグラスの薪を作ってくれている「あさまの薪」では、自然乾燥2年の歳月をボイラー乾燥で「3ヶ月ちょっと」まで短縮することに成功しました。
3ヶ月間自然乾燥をした後、ボイラー乾燥室で3日間仕上げ乾燥をします。ボイラーは、薪作りの途中で出てきた木っ端や木くずが燃料。なるべく伐った木は木っ端であれ「活かす」仕組みをとっています。
最新技術で乾燥期間が短縮されたとしても伐採から3ヶ月、その奥には木が成長するまでの数十年間。
キャンプ場に「薪」が来るまでには、長い道のりがあるのです。
火を育てる楽しみ
長い道のりを経て手にした「薪」。火をともすとき、どう扱うか。
火とは不思議なもので、どんど焼きのような大きな炎には「自分の力ではどうにもならない畏怖の感情」を抱くわりに…
冬の朝、消えかけた小さな熾火から少しずつ炎を大きくする難しさ…。火ふき棒で息を吹きかけたり、薪の置き方1つで燃え方に変化が出たり…試行錯誤して「自分で1から育てた小さな火」には愛着がわきます。
着火剤やバーナーなどあれこれ使って、薪をたくさんくべれば火は難なく大きく育ちます。
でも、マッチの小さな炎から(なんなら火打ち石の火花から)、くべる薪の太さやタイミング、薪の組み方や空気の送り方…ゆらめく炎の機嫌を見ながら、試行錯誤して育てた火の方が愛着がわくし、おもしろい!と、私は思うのです。
つまり、使いすぎはクールじゃありません。そして、大きすぎる火は危険も伴います。
小さな火でも、よく見てお世話をしてあげると変化があっておもしろいですよ。
持続可能な「身近な山とのおつきあい」
スウィートグラスを運営する「有限会社きたもっく」がグッドデザイン大賞2021の金賞を受賞しました。
受賞内容詳細はこちら
グッドデザイン賞は「物」に対する賞かと思っていましたが、「事業」のデザインも対象になるそう。きたもっくは会社全体の取り組み「循環型地域未来創造事業」を応募しました。
「浅間北麓の地域資源の価値化とキャンプ場等の場づくりを軸にした循環型地域未来創造事業」
概要:浅間山の麓「北軽井沢」で、広葉樹を中心に自伐型林業を展開。遊休山林や耕作放棄地では植生循環を促す養蜂に取り組む。木は薪や建築素材に、蜂蜜は食材や加工品として、年間10万人が訪れるキャンプ場で主に活用される。地域資源の価値化と人が集う場づくりとで、地域内で生産から消費をシームレスにつなげる持続可能な循環型事業を実践。
ぱっと見、キャンプ場と関係ないように見える事業ですが、作ったものを使用(販売)する「出口のひとつ」として、ちゃんとつながっています。
広葉樹の活用
スウィートグラスの姉妹施設「あさまのぶんぶん」では、半径35km圏内で伐採される原木の回収を行っています。また、自社でも伐採を行います。(35kmは身の丈に合った、無理のない範囲)
ここ北軽井沢周辺では、昔、炭焼きが盛んだった地域性があってか広葉樹が多いです。すらっとまっすぐ伸びる針葉樹と違って、広葉樹は節があったり、曲がっていたり…製材に適さないものが多いそう。
木を伐る理由はそれぞれ。マイナス20℃近くまで下がる北軽井沢で冬を越すには薪ストーブは「相棒」、薪は大切なエネルギー源。でも、薪を得るためではなく新しく家を建てるためだったり、危険木をあらかじめ伐っておきたいなどの理由で伐られた木は捨てられてしまうこともあるんだとか。
「あさまのぶんぶん」では、製材に適さないような木も含めて、伐った木の第二の人生(木生?)を模索しています。伐っておしまいじゃなく、伐ったからには最後まで活かしたい。
実は、ムギ・グルマンはこのあさまのぶんぶんが想いをぎゅっと詰め込んだ施設。とくにグルマンは「森のかけら」の面影が多く残る内装になっています。
▼ 暖炉前のテーブルは1本の木から切り出された1枚板、自然な曲線がおもしろい
そういえば、昔、ツリーハウス作家の稲垣さんにインタビューをする機会がありました。
“ ツリーハウスを作るときは柔らかな自然に寄り添う形のものを作りたい。
無機質な直線ばかりの建物はつまらないでしょう?”
人間の都合に合わせて、端を切り落として「まっすぐ」にしてもいいんだけど、それって少し機械的でつまらない。
あえてそのままの形を残した「ゆがんだいびつな形」がなんだかホッとするし、「おもしろそう!」とワクワクさせる…。
「自然と対話しながら、自然に寄り添うように」その心意気がやさしい雰囲気をつくるのかもしれません。
木を挽いて半径35キロの未来をつくる
求人サイト「日本仕事百貨」でぶんぶんファクトリー製材所で働く新しい仲間を募集しました(現在募集は終了しています)。
スタッフ募集の記事ですが、単純に読み物としてもおもしろいのでお時間のある方は是非読んでみてください。
▼ 2021年10月掲載
▼ 過去の記事、スウィートグラスができるとこから最新コテージ「グルマン」の制作秘話まで載ってます
▼ 最新記事2023年5月掲載
まとめ:私たちも循環の中にいる
この先、何十年、何百年とキャンプを楽しめるように。
たどってきた道がよくわからない物を使うより、「どこの誰がどんな想いで作った物か」を知った上で使った方がより丁寧にあつかうし、愛着を持てると思うんです。
消費の最前線に居る私たちキャンプ場のスタッフが、ストーリーも一緒にお客様へお伝えできるよう、心意気のバトンを引き継いでいかなければと改めて実感。少しでもこのブログで伝われば幸いです。
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