きたかる遺産❷ 場を継ぐ人
故きを温ね、新しきを温める
谷川俊太郎さんの詩から、篠原一男さんが建築した伝説的山荘が、北軽井沢の大学村にある。館の主は、自らを「新種の老人」と称する遠山正道さん。憧れの建築物を、縁あって5年前に取得。東京から電車とバスを乗り継ぎ、毎週のように通いつめている。
件の「Tanikawa House」は、住宅というより聖なる祠だ。山塊のような大屋根が覆う内部は、斜めった地面がそのまま床になっている! ストイックさに惚れ込み身体に少しづつ「馴染ませている」ものの、ここは北軽井沢。1年の半分は冬のような寒冷地で、暖かな「気配」が感じられる居場所を欲していた。
思いついたのは「暖居」という名の小屋。早速、仲良しの建築家・御手洗龍さんをご飯に誘い、思いの丈を伝える。きたもっくから立ち木を活かしたツリーハウス形式を提案すると、周囲の景観を存分に楽しめる森の観測基地のようなデザインがかえってきた。一般的な建物は、太陽熱で暑くなり過ぎないように設計するものだが、暖居には2つの大きな天窓も含め4方向に出窓があるのだ!
図面と3Dイメージが送られてきたのが冬。春にはお披露目したいと、急ピッチで制作がはじまる。ぶんぶんファクトリーのデッキで仮組みされた躯体は、複雑なジャングルジムのよう。棟梁たちが悪戦苦闘しながら材を刻む姿に、見守るだけの私はワクワク。一体どんな形になるのか皆目分からなくて面白い。
バトンを継ぐ、ミライを紡ぐ
きたもっくとのお付き合いは、遠山さんがルオムの森を訪れ、薪ストーブの相談をしたことから。荒れた敷地をアーボリチームが伐採し、母屋や離れを建築チームが修繕し、ストーブチームが薪ストーブや薪風呂を新設。さらに薪チームが薪を配送している。
木を伐り、薪をつくり、小屋を建てる…リレーのようにチームからチームへとバトンが継がれることで、麓暮らしの包括的サポートが可能になりあさまのぶんぶんの真価が発揮される。継続的な依頼は信頼を重ねた証であり、「暖居」は我らきたもっくにとっても嬉しい記念碑なのだ。
長く厳しい冬があけ、新緑輝く5月。皆で進捗を確認しながら、ストーブに初めて薪をくべる。小屋の面積は10㎡ほどだが、段差や壁の凹凸、合計6つの窓のお陰で狭さを感じない。座る位置を変えれば、体感温度も見える景色も変わる。遠山さんが望んだ「背中をあずけられる壁」が随所にあり、数人いてもそれぞれに安座できるのが素晴らしい。
代官山と北軽井沢…2つの拠点を行き来し、いくつもの事業やユニークなライフワークを展開し続ける遠山さん。少年のようなキラキラした目には、また新しい「きたかる」が見えているだろう。