二〇二四年元旦に寄せて
我ら 希望の星になる

最終更新日

より自然に近づいて身を置くことで生まれてくる五感の覚醒は、自分を知る第一歩です。「きたもっく」のスウィートグラスTAKIVIVA(私はこの事業をフィールドビジネスと名付けた)は、自己を知り、他者を理解するための“場づくり事業”として発出している。私は自然と人の交感関係から生まれる効用を信じ、素朴で素直な自分を保持して生きてゆく「場」を必要とした。それは、己の欲求でもあるが、社会の欲求でもあると確信できた。40代の私は浅間高原の地で人と自然の接点となる“場づくり事業”に注力し、夢中になった。

その事業的過程は多少の紆余曲折があったにしても、自分自身さほどの困難を感じたわけでもなく、自然を知るために少しばかりの忍耐を必要としただけだ。スタッフをはじめ多くの先輩方に恵まれ、ご縁という「運」が味方してくれた。どこまでも素朴で素直な自分と真正面に向き合う生き方は、時に、我が強く利己的な奴と誤解されることもあった。とはいえ40歳以降の私は、“思うようにならないが、思ったようにはなる”という楽観的な未来志向を貫こうとしてきた。


場づくりとフィールドビジネスの実践過程で、私はいくつかの言葉(概念)やフレーズ(理念)を知ることになる。[ルオム] 自然に従う生き方、有機農法。フィンランド語で広義・狭義の2つの意味。生き方を問う会社をイメージする。[未来は自然の中にある The future is in nature. ] きたもっくのコンセプトブックのタイトル、人と自然の関係から生まれる事業コンセプト。[きれいな心の時代 地域主体方法論] 2022年発行のパンフのタイトル。私自身の地域再生に対するパッションや事業実践がどのように生み出されたのかを方法論として記したパンフレット。 [タキビディスタンス] TAKIVIVA事業の根底にあるフラットな関係作りとコミュニケーションのあり方を指し示す概念。会議のあり方に対する問題提起でもある。[離合(Rego)] 組織が活力を生むためのプロセス概念。個と組織の融合を促進するための手法。[C(炭素)の物語] 炭素を厄介者にするのでなく、炭素の循環からカーボンニュートラルの新産業を掴み取るための立ち位置の確認。[地域的制約が豊かさの本質を見える化する] 制約が循環・持続の見える化につながる。見える化はデザインの本質であり、ディテールにまで貫かれるデザイン思考は成功するための必須の視点。循環・持続の社会理念は“豊かさ”実感の質的変化を伴う。[心身発露] 造語だが、アフターコロナのマーケットの潮流を示し、次なる私の事業テーマでもある。

これらの概念やフレーズは、スタッフや先輩方の出会いから気づきを与えられ、自分自身の体験、体感を経てひねり出されたものばかりだ。こうした言葉やフレーズは私を強くし、より大きな枠組みを構想するきっかけを作り出した。フィールドビジネスが“場づくり事業”から発展した第三次産業の新モデルとすれば、地域の制約を前提としつつ、そこに特有の資源(とりわけ自然素材)を活用する逆発想の手法やそれに伴う事業実践は、ズルズルと泥沼化し、停滞する日本産業に活力を取り戻す新産業モデルの高みを見せてくれる。その背景には都市マーケットの直接的延長上に地域再生が成立しないという厳しい現実がある。

ケシ粒のように小さなローカル企業が、都市巨大マーケットの安売り構造(円安は日本の労働の世界市場での安売り以外の何物でもない)に抗して何が出来るのだろうか。きたもっくが組織する労働は高い価値を実現できるだろうか。…とはいえ、そこには飛躍を必要とする深いクレバスが存在する。資本が価値を獲得するときのクレバスだ。この問いに対する解は社会の根底にある「豊かさ」を求めるマーケットの質的変化を探し当てる作業と合致している。ヒントはそこにあるのだか、あくまでヒントにすぎない。依然として労働の成果を価値に変換するためのより精緻な取り組みが求められ、きたもっくの重要課題となる(事業利益はどこに消えてしまうのだ)。きれい事で済まない中小零細企業の現実でもある。私は思わず立ちすくむ。


私は私たちの組織する労働が“誇りある労働”として実現されることに強いこだわりを持ってきた。地味で泥臭い労働の積み重ねだが、“誇りある労働”を実現する目的意識的取組みは、きたもっくの事業循環図を完成させるプロセスと密に連動している。拠点工場完成とバイオマスエネルギー(薪エネルギー)の普及と活用は、単に薪ストーブやボイラ―事業にとどまらず、地域エネルギー(熱電併用)のオフグリット化の近未来図に道を開き、C(炭素)の循環は林業と農業の境界を越えて、“土づくり”から始める有機新農法の可能性を秘めている。私たちの事業実践循環図はまだまだ未完成なのだ。多面的循環型の事業活動をイメージする企業体の試行錯誤は続く。

自然派の人々よ。本当に自然が好きならば、その無限の可能性に思いを馳せてみよう。きたもっくスタッフは一人一人が何役もこなすチーム作りを目指す。それは労働のカタチが違っても、同質の労働を確認しあうことであり、誇りある労働を互いに認め合うことでもある。構想(ストーリー)は各場面、局面のディテールに至るまで質の高いデザインで描き切ることが要求される。きたもっくの試行錯誤は現場の最前線に現れる。

私の元旦の初夢は思うようにいかないじれったさを伴っているが、懸命に働く仲間たちのシーン、その一つ一つが私を落ち着かせ、諭してくれる。

この原稿を書き上げる最中、能登半島で巨大地震が発生した。戦争の時代、災害の時代、真実の見極めの難しい時代、そして、人と自然の関係が問われる時代…ジャガーノートが動き出し、私達はその車輪の下にいる。時代の潮流は私が記した昨年の年頭所感から何も変わっていない。しかし怯むことなどない。地方の時代の事業スタイルとはシンプルで分かりやすく、明るいのだ。

きたもっく代表 福嶋誠