きたもっく仕事図鑑19
ライラックを咲かせる仕事

北軽井沢には、国道から1本外れた裏路地に100種以上のライラックが咲くガーデンがある。
ライラックはヨーロッパ原産、冷涼地を好むので日本では北海道でよく見る園芸品種だ。一般的にはライラック=淡い紫色と十字の花びらが特徴だが、品種改良によって白やピンク、八重咲き、背の高さ…などバラのようにさまざまな種類が楽しまれている。
バラ園は全国そこかしこにあるが、ライラック園は珍しい、ことさら100種も一度に楽しめる場所は本州では唯一無二ではなかろうか。

2017年5月27日撮影

2012年にロシアから苗木を取り寄せ(一部は接ぎ木)、5,000㎡ほどの敷地に約200本を植えた。2017年にはほぼ全ての株に花が咲き、お茶会を実施。

2017年のお茶会の様子

3年ほど続いたお茶会もコロナ渦で中断。2022年には4月のドカ雪と-10℃近い冷え込みで芽吹かない枝が出てしまった。弱みを狙われたのかカミキリムシの食害で枯れる木も出てきた。

カミキリムシに食われた跡

ぱっと見は華やかな花だが、その奥にはたくさんの苦労が詰まっている。ライラック園は牧草地と森に囲まれ、カッコウとキジの鳴き声が飛び交う場所にある。ほったらかしにすればあっという間に自然に飲み込まれてしまう。

草刈りしないと一面タンポポ
すぐ近くで大音量で鳴くカッコウ

ぐんぐん伸びる草を月に数回刈る。1本1本、根元にカミキリムシの食害がないか確認してまわる。花が咲き終われば花がらを摘み、来年に備える。

長年ライラック園の管理を担ってくれていた人が、卒業を宣言した。引き継ぎをしながら、細かな作業と知らぬ間にやってくれていたことの多さにおどろく。当たり前の風景は、ほったらかしでは成されない、だれかの頑張りで成り立っていた。

師匠からいろいろ教えてもらう

樹勢が落ち、担い手も変わる、過渡期にあるライラック園。だれかの頑張りをみんなの頑張りに変えるべく、まずは5月14日に草刈りを行った。課題は多いが発見も多かった。「部署や役職を超えて人が集う」協働は、普段あまり顔を合わせない人とも話す機会になった。デスクワークばかりの印象からは想像が付かない、意外な一面も垣間見える。飲み会に変わるコミュニケーションの場になり得るかも知れない。

品種名も新しく、消えにくい墨汁で作成

数年前から香料の老舗「長谷川香料株式会社」がライラックの香りの開発を進めている。5月22日には取引先の調香師を連れて視察が行われた。香りのエキスパートによれば、種類によって香りは若干異なるようで、「1カ所にこれだけたくさんの品種がそろっているのはすごい!」と、ライラック園の価値を再認識することができた。
ライラック園の始まりはご近所に別荘を持つロシア人のイリナさんからライラックの素晴らしさを教えてもらったこと。ロシアにおけるライラックは、日本のサクラと同じ感覚。厳しい寒さを耐え抜いた先の幸せの景色。今年は、ちょうど新緑のきらめきと早咲きのライラックの満開が重なった。樹勢が落ちたと言えど、全てではない。元気な木はたわわに花をつけている。種類が豊富なおかげで、早咲きは終わりを迎えたが、遅咲きはまだつぼみ、6月中旬までたのしめそうだ。「ライラック園」は、花の咲く時期だけ、一般公開している。場所を検索しても、どこにも載っていない、知る人ぞ知る秘密の花園。お越しになる際は、まず「ルオムの森」へ。

ルオムの森:営業時間11時〜17時(火曜日定休)