自然のなかで活字文化を育む場づくり
Author Residence in 北軽井沢スウィートグラス

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『豊かさ』の根底を支えるひとつの根っこ、“活字”文化。その拠点ともいえる全国の書店数はこの20年で半減し、文筆活動を含む創造的な活動に不可欠な五感を解放できる場所(自然を体感できる場所)や機会は都市部を中心に減少している。


このような背景のなか、きたもっくは自然のなかで活字文化を育む場づくりとして『Author Residence in 北軽井沢スウィートグラス 2025』を初開催。
活字に携わる人たちがキャンプ場に数日間滞在し、自然や焚火を通して新たなひらめきや気づきを得る取り組みだ。

本企画は、群馬県が多様性や独自性の象徴であるアートを活用し、魅力的な地域社会の形成を目指す「群馬パーセントフォーアート」の支援を受けて行った。滞在最終日には、参加者によるトークセッションを開催。
「自然と言葉」「テクノロジーと言葉」「事業と言葉」をテーマに、一般参加者も参加した。滞在中の温泉体験を通して「治す」から「治る」医療、テクノロジーが発達しAIが言葉を生み出す時代に人間がやるべきこと、事業と組織における言葉の役割等が話された。

滞在を振り返って

REBEL BOOKS 店主
荻原貴男さん


きたもっくの取材を通じてスウィートグラスに泊まってみたいと思っていたところ、ちょうど声をかけてもらい参加しました。
普段は群馬県高崎の街に住んでいるので、自然の中に身を置きたいというのもありました。「何もしない」がテーマでしたが、実際は頑張って仕事をしていました(笑)
やることがあったタイミングだったので集中できたのはよかったですが、もっと時間に余裕があれば本をたくさん読みたかったです。

薪ストーブの扱いに慣れていなかったため、最初はストーブの前にいる時間が多かったのですが、徐々に慣れてくると、一定間隔で薪をくべる自然のリズムが心地よくなってきました。

トークセッションを一緒にさせていただいた稲葉俊郎さんが著書で、人間の健康について「あたま」「からだ」「こころ」の3つのつながりから解説しています。
普段「あたま」が肥大化しがちですが、自然の中に身を置いていると「からだ」と「こころ」に響く瞬間が多かったです。
次回があれば、書き手のみなさんの書籍を買えるミニ本屋をぜひやりたいです。

Takram ディレクター/デザインエンジニア
緒方壽人さん

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予測ができない企画で、どうなるか分からないところが面白いと感じ、よくわからないけど行きますと参加しました。
期待通り、緻密に練られたイベントにはない、参加している人たちで「こういうことなのかな」と作り上げていくような場になりました。
きたもっくの温泉に入って近年まれにみる気持ちのいい昼寝をして、空っぽになることができました。
現代の忙しい人たちにとって「時間」をもらえるというのは、価値のあることだと思います。
この機会がなかったら読まれることがなかった本を読めたり、しなくてもいいことができた、というのが良かったです。

セッションでは「土着のテクノロジー」というキーワードをもらいました。土地にある資源や人を価値化して産業にするということを、きたもっくは実践している。
テクノロジーにできること、それこそ樹木やミツバチなど、いろいろあるなと感じ、次にやっていきたいことのヒントをもらえました。何か一緒にやりたいなと思ってます。

レジデンスに参加した 書き手・話し手


あいうえお順

稲葉 俊郎
慶應義塾大学システムデザイン・マネジメント(SDM)研究科 特任教授
1979年熊本生まれ。医師、医学博士、産業医。東大病院循環器内科助教(2014-2020年)、軽井沢病院(2022-2024年:院長)。2024年現在、慶応大学SDM特任教授。東北芸術工科大学客員教授(山形ビエンナーレ2020 2022 2024芸術監督)、武蔵野大学 ウェルビーイング学部 客員教授、Le Furo : Chief Medical Officer (CMO)などを兼任。「いのちを呼びさます場」として、湯治、芸術、音楽、物語、対話などが融合したwell-beingの場の研究と実践に関わる。著書に『いのちを呼びさますもの』『いのちは のちの いのちへ』(アノニマ・スタジオ) 、『ころころするからだ』(春秋社)、『からだとこころの健康学』(NHK出版)、『いのちの居場所』(扶桑社)、『ことばのくすり』(大和書房)、『山のメディスン』(ライフサイエンス出版)など。

内沼 晋太郎
株式会社NUMABOOKS 代表取締役/株式会社バリューブックス 取締役
1980年生まれ。一橋大学商学部卒。ブック・コーディネーター。株式会社NUMABOOKS代表取締役、株式会社バリューブックス取締役。2012年にビールが飲めて毎日イベントを開催する新刊書店「本屋B&B」を、2017年に出版社「NUMABOOKS出版部」を、2020年に日記専門店「日記屋 月日」をそれぞれ開業。また、東京・下北沢「BONUS TRACK」の運営を行う株式会社散歩社の代表取締役もつとめる。著書に『これからの本屋読本』(NHK出版)『本の未来を探す旅 台北』『本の未来を探す旅 ソウル』『本の逆襲』(朝日出版社)などがある。現在、東京・下北沢と長野・御代田の二拠点生活。二児の父。

内村 寿之
株式会社パラドックス 執行役員
NY州立大学卒業後、株式会社パラドックス入社。ワークショップを重ねながらのワーディングを通じて、企業のコーポレート・採用・インナー・事業領域のブランディングに関わる。近年では、自社メディアの立ち上げに関わり、オンライン・オフラインを越え、個と企業が志で握手をするためのコミュニティ運営も行なっている。

緒方 壽人
Takram ディレクター/デザインエンジニア
デザイン、エンジニアリング、アート、サイエンスを領域横断するデザインエンジニア。東京大学工学部卒業。プロダクトからサービスまで多様なプロジェクトに携わる。主な実績として「HAKUTO」月面探査ローバー、NHK Eテレ「ミミクリーズ」など。グッドデザイン賞審査員。著書に『コンヴィヴィアル・テクノロジー』。

荻原 貴男
REBEL BOOKS 店主
群馬県高崎市に「退屈に反抗する」という意味を名前に込めた新刊書店REBEL BOOKSを2016年開店。書店を営みながら編集者・グラフィックデザイナー・ライターとしても活動。地域のさまざまなプロジェクトを請け負う「まちの編集社」にも所属。群馬の日常の魅力を伝えるWEBメディア「つぐひ」編集長。1979年高崎市出身。

図Y カニナ
家事・育児・執筆
1985年生まれ。宮崎県出身。京都の大学を出て、大阪の企業に就職することが決まっていたが、嫌になって初日に辞退。みうらじゅん氏の追っかけをするために上京。秋葉原でメイドとして働いた後、レコード会社で宣伝業務に従事。2013年2月、漫画を書きはじめる。「講談社プロジェクトアマテラス」にて「ねとらぼ賞」を受賞し、ニュースサイト「ねとらぼ」 にて4コマ漫画「カニ天国」シリーズの連載を開始。しりあがり寿Presents「さるはげロックフェスティバル」に数回出演。その後、出産を機に退社し、漫画家としての活動も休止。しばしのブランクを経て、文章を書きはじめたところ、思いのほか評判がよかったため、初めての著書『沖縄に六日間』を自費出版。「文学フリマ東京」や「日記祭」などのイベントや一部の書店で販売している。最新作は『白夜日記』。現在、二児の母。長野県在住。

ナカムラ ケンタ
株式会社シゴトヒト/日本仕事百貨 代表取締役
株式会社シゴトヒト代表。心地のいい場所には「人」が欠かせないと思い、生きるように働く人の求人サイト「日本仕事百貨」を立ち上げる。グッドデザイン賞など、様々な審査委員を歴任。東京・清澄白河「リトルトーキョー」にて、いろいろな生き方・働き方に出会える「しごとバー」や誰かの人生を変えた本を集めた小さな本屋「LIFE BOOKS & JOBS」を企画・運営。2022年から焚き火をかこむ合同企業説明会「かこむ仕事百貨」を手がける。著書『生きるように働く(ミシマ社)』。

廣畑 達也
英治出版株式会社 プロデューサー/編集者
書店員、書店営業を経て編集者。駆け出しの頃、社会起業家という存在に出会い、事業を通して「経済性」と「社会性」を両立させるそのあり方に感銘を受ける。以来、「ソーシャルイノベーション」についてコツコツ取材を続け、人が持つ可能性を解き放つためのコンテンツづくりに取り組んでいる。2023年より英治出版に参画。2024年12月、地域に長く根を張り、世代を超えて持続的な変化をもたらす取り組みにフォーカスするレーベル「土着のイノベーション」を立ち上げる予定。趣味は「本屋活動」。ひと棚本屋「ハタハタショボウ」、家族で運営する私設図書室&公民館「蔵書室ふもと」などを展開。

山田 裕嗣
株式会社令三社 代表取締役
人材育成・組織開発のコンサルティング、大手ITベンチャーのHRを経て、2012年よりBtoB SaaSの株式会社サイカの創業に参画、代表取締役COOを務める。2017年に独立し、上場を目指すベンチャー企業の組織戦略の立案・実行、大企業の人材育成や新規事業の立ち上げ等を支援。2021年10月に株式会社令三社を設立、代表取締役に就任。ティール組織・自己組織化などに関する国内外の有識者との議論や、新しい組織運営を目指す企業のサポートを手掛ける。『Signs of the Shift』(著作)、『すべては1人から始まる』(翻訳・監修)、『コーポレートレベルズ』(翻訳)。