きたもっく代表 年頭挨拶

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ジャガーノートの車輪の下で


個人といえども、会社といえども、何人たりとも抗えない大きな力が奔流となって動き出し、歴史的変化の時代が出現します。全てを巻き込み、すり潰すジャガーノートの車輪の下で、何を大切にすべき価値とするか? “生きることと働くこと”を地域に根差すことでとらえようとする「きたもっく」が新時代の“豊かさ”を探し求め、なおかつ、賢く生き残る道筋を考えています。

数年にわたり、私たちを苦しめ続ける新型ウイルス(コロナ)の感染拡大は医療制度の混乱と社会経済活動の停滞をもたらしてきました。そこで問われたことは、根本
的には「人と自然の関係」についてであり、社会的にはポストコロナの「新しい生活スタイル」をどう導き出すかという課題でした。この2つのテーマはこれまで私たちが事業活動の中心に据えてきたテーマであり、ルオム理念や「未来は自然の中にある」というコンセプトによって体現されてきたものでした。きたもっくはポストコロナを受け止める主体として、十分な資格を持っています。

コロナ禍による社会的引きこもり現象は、ネット空間の活性化と連動しています。AIやIOTといった情報技術の進歩は、各産業の合理化と生産性向上をもたらしますが、ネット空間の拡大は実在感のないフェイクを伴うことで社会的不安感を増幅させます。インターネット(仮想空間)は、目立ちたがり屋で派手なパフォーマンスが繰り広げられることによって、人々を不安に駆り立てるフイゴの役割も果たしているのです。

私たちはむしろこのネット現象の裏側に、もっと確かで手触り感のある温かい何かを求める人々の欲求を見て取ります。それこそが「豊かさ」とは何か?を問うことであり、きたもっく事業を成立させ、成功に導くカギでもあります。

ネット上の“不安”は、現実社会を歪んだ形で反映しています。物価の高騰や不安定な通貨、効果に乏しい財政膨張と破綻の予兆、富の極端な偏在と歪な社会構造・・・・こうした実態が身近な生活の中で直接的に感じられる段階です。戦争や国家間の対立は、世界市場を分断し、世界経済の発展の象徴でもあったグローバリズムは消え去ろうとしています。国内社会では、少子高齢化が進み、人口減少は避けられない現実です。「過疎」地域は全国に広がり、福祉やインフラを維持できなくなります。何人も逃れることのできないジャガーノートが、うなりを上げて動き出しているのです。

私たち(きたもっく)は五感を活性化しナチュラルなリズムを作ることで人と人の関係を再確認するという独特な場づくり手法をもってフィールドビジネス(キャンプ

場やタキビバ)を構想し、自然との接点を見失った都市住民(家族)や企業・学校等(団体)を引き付けてきました。アウトドア業界は一時的流行を終え、私たちは次のステップに踏み出すべく、新事業を実装する段階にきたと考えています。この新事業はこれまでの場づくり事業と区別された、新しいカタチの事業としてチャレンジされます。

もう一つの事業部である地域資源活用事業部は、林業や農業といった既存の事業を再構成し、樹木や水や土壌といった自然の素材を最大限活用する「モノ作り」中心の
事業に取り組んでいます。こうした試みは中心拠点となる第二工場(ぶんぶんファクトリー)を作ることで端緒に着いたばかりですが、この拠点工場は「新産業を作り出す」という私たちの心意気の象徴でもあります。

きたもっくの事業は、時代を先取りする優れたストーリーとそこに集結する志の熱量から始まります。きたもっくのようなローカルで小さな事業体が生き残り発展するために必要な資質とは何か? 私たちは人々が求める“豊かさ”がどこに存在するのかを見極める感性にあると答えます。感性の原点は「人と自然の関係」の中に存在します。マーケットは社会の中にありますが、そこに表れる“豊かさ”への欲求はしなやかな感性によって感知できます。その感性は「きれいな心」によって生み出されるのです。個が生きて、同時に他者(人間だけでなく自然界全体)によって生かされているという世界観が「きれいな心」の中心にあります。だから私たちは、温かくて手触り感のある感性(きれいな心)を大切にします。

強固な意志と志に基づく組織、豊かさを見極めるしなやかな感性、循環をテーマとした地域再生とモノ作り事業・・・・きたもっくの事業的試みはジャガノートの車輪の下で輝きを維持できるでしょうか? それは私たちの事業が意味と価値を実感できる「誇りある労働」を組織できるか否かにかかっています。何故なら「誇りある労働」の組織化こそが、新しい時代を切り拓く原動力であるからにほかなりません。「きれいな心」から生まれる感性と「誇りある労働」の実現は、ジャガーノートの車輪の下で生き抜くための生命線なのです。

信州上田に前山寺というお寺があり、参道の入り口の石碑には「かけた情は水に流せ、受けた恩は石に刻め」と書き込まれています。他人にかけた情(なさけ)はすぐ

に水に流してしまえ。私たちは地域の方々をはじめ多くのご恩を頂き存続していますが、おそらくできる恩返しは微々たるものでしかありません。それでも、共に生きて生かされている恩義を石に刻みます。そして、私たちの恩返しは、未来を切り拓き、次世代をつなぐ事業を発展させることで果たしたいと考えています。

2023年 元旦 福嶋 誠

ジャガーノート [ juggernaut ] とは、止めることのできない巨大な力、圧倒的破壊力のこと。
ヒンドゥー教の神であるジャガンナートが語源。