【養蜂×アート】蜂飼いのアーティスト

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写真家・現代アーティストの平澤賢治さんが、初めて養蜂着(養蜂用の防護服)に袖を通したのは2021年10月のこと。
きたもっくが取り組む養蜂に興味をもち、カメラで蜜蜂の様子を撮影した。

平澤さんはこれまで、サーモグラフィーカメラを用いて人や馬の目に見えない温度を可視化することで、心や魂といった非物質的な存在を表現してきた。
彼の人物撮影は、体を温めるはちみつ入りのドリンクを飲みながらの歓談から始まることが多く、体に入れるものだからこそ食材にもこだわりたいという思いから、はちみつに興味を持ち始めた。

2021年10月 黒いパンツに革靴というまだ初々しい姿

23年には自ら養蜂に挑戦したいと、毎週のように東京から北軽井沢へ足を運び、ルオムの森に設置した蜂箱の世話を始めた。
養蜂では週に数回、蜂箱の中のミツバチの状態を観察する「内見」という作業を行う。
箱の中でミツバチがどのような生命活動をしているかもっと詳しく見たいと、4面がガラスでできた特注の蜂箱を制作。
箱内の温度を巧みにコントロールするミツバチの習性にも着目し、オンラインで確認できる温度センサーも設置した。

ガラスの蜂箱は、それ自体が美しい彫刻のよう

24年に東京で開催した個展では、1年間の養蜂活動をアーカイブして発表。
自身で採蜜したはちみつを使ったドリンクも提供し、仲間からは「アーティストで養蜂家」と言われた。

平澤さんは、これまでの活動を「虫好きの少年だった頃からのミツバチへの純粋な興味と、驚きの連続を受け止める活動」とした。
25年はガラスの蜂箱を観察が主な目的だったルオムの森から、実際の採蜜活動が行われる北軽井沢の圃場に移動。
生命としての蜜蜂だけではなく、ミツバチと周囲の自然や人とのつながりへと視野を広げた。
5月から6月にかけて週3日程は圃場に通い、蜜蜂とともに働く人の様子や、北軽井沢の自然、地域コミュニティのなかでの養蜂の姿を捉える。

平澤さんは「写真というアプローチは、背景にある様々なストーリーを一枚に封じ込めること」だと言う。
ミツバチを通して、身近にある自然が連関していること、複雑なエコシステムのうえに私たち人間も生かされていることを表現したいという彼の言葉は、地域の風景を残す蜂蜜というきたもっくのコンセプトと深く共鳴している。

自分の直感を信じ、納得がいくまで取り組む。その過程で出会う新しい興味にも柔軟に変化する。
平澤さんの姿は、「アーティスト」とは単に技術を持つ人ではなく、尽きることのない好奇心を持ち続ける人のことだと教えてくれる。
そう考えると、きたもっくが「アーティストのような企業」と言われることも腑に落ちる。

平澤さんのガラスの養蜂箱は6月いっぱい、北軽井沢の圃場で採蜜作業をした後、ルオムの森に移動して自由に見学ができる予定。
今年採蜜する蜂蜜は、都内のギャラリー等で限定販売する。