あえて手間をかけ、火を囲む。
「スウィートグラスの食」という贅沢。


「手ぶらで、気軽にキャンプを楽しんでほしい」

至れり尽くせりのサービスが広がるなか、北軽井沢スウィートグラスでは予約食材の売上低下というひとつの課題に直面している。

原因は、快適さとは対極にある「能動的な手間の多さ」だろう。手渡される食材は、あえて「未完成」のままだ。
自ら薪をくべ、火を熾(おこ)し、未知の熱源を扱う。
この不慣れな調理の手間が、便利さに慣れた現代の暮らしにおいて、ひとつの高いハードルのように感じられてしまうのかもしれない。

だが私たちは、この一見不便なプロセスこそを、他では味わえない固有の「価値」として捉え直している。
お膳立てされた便利さから少し離れ、自ら手を動かし、仲間と語らう。
そこから生まれる豊かな手応えを、スウィートグラスの「食」を通じて届けていきたい。

贅沢な不便さを支える、林業のインフラ

すべての手間を省く合理性に走らないのは、「林業」という地に足のついたバックボーンがあるからに他ならない。

宿泊費に含まれる「薪使い放題」は、自社で木を伐り、地域資源を循環させているからこそ提供できる独自のインフラだ。
薪は単なる商品ではなく、泥にまみれた労働の先にある、血の通ったエネルギーなのである。

誰もが残り火を気にせず火を熾し、育てる楽しさを味わえるように。
目の前の炎を観察し、適した熾火(おきび)を作る。
スウィートグラスの予約食材とは、有限な自然資源の価値を五感で知るための「火との対話チケット」だ。

炎を調味料にする、薪火メニューのシズル

あえて手仕事を残す先に、贅沢な時間が待っている。

たとえば、一番人気の「SGまるまる丸鶏(ダッチオーブン料理)」。
丸ごとの鶏肉と野菜を重厚な鍋に入れ、じっくりと焚き火にかける。
温度調節ダイヤルはない。どうすれば焦がさずに美味しく焼けるか、火加減を推し量るその試行錯誤のなかに、すでに贅沢な時間が流れている。

あるいは、通年人気の「ピザセット」。

生の生地を自分で伸ばし、薪ストーブへ。
窓越しの炎を見つめ、一喜一憂する数分間を経て、焼き上がったいびつなピザを口にするとき、美味しさは「自分の手でつくりだした」という能動的な達成感へと変わる。
不確実な火を相手に知恵を絞り、手を動かすプロセス自体が、眠っていた五感を呼び覚まし、味わいを深めていく。

「協働の火」が、関係性を編み直す ― TAKIVIVAへ

この「ともにつくる時間こそが価値である」という確信は、企業合宿施設「TAKIVIVA(タキビバ)」の思想にも繋がっている。
定番は、自分たちで火を熾す「かまど炊飯」と「カレー作り」だ。

思い通りにならない「火」を前にすると、大人の肩書きは剥ぎ取られ、驚くほど素直な対話が始まる。薪をくべ、火の番をする。
直感的な役割分担のなかで同じ飯を分かち合うプロセスが、バラバラだった集まりを一つの「チーム」へと編み直していく。

便利さの先で、手元に残るもの

予約食材は、ただ手軽さを売るものではない。
手間をかけ、工夫し、わかち合う「一番豊かなプロセス」を引き算し、あえてゲストの手に委ねているのだ。
単に消費するのではなく、炎と向き合い、自分の手で仕上げていく。そのささやかな手仕事と自然なコミュニケーションが、食事を特別なものに変える。

静かな夜、あちこちのサイトから立ち上る煙を見つめていると、すとんと腑に落ちる。

不確実な火を相手に、自分の手で小さな明かりを灯し、手間を楽しむ食事には、確かな充実感がある。
そんな現代の暮らしで隠れてしまいがちな「つくる手応え」と「通い合う温もり」を、私たちはこれからも森の食卓の火を通じて、静かに手渡していきたい。