【キャンプ×アート】「たいくつ」知らずのアトリエキャビン
作家とスタッフと、訪れるお客さんと。互いに響き合う緩い循環に気づいたスタッフのレポート。
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北軽井沢に引っ越して今年で10年経つ。2015年5月、新緑の輝きに驚き、冬の寒さにシビれ、駆け抜ける季節を逃したくなくて毎朝お散歩をした。

きらきら輝く景色はやがて日常へ、いつ見てもキレイだと思うが、早起きして出かけるほど…ではなくなる。新しい発見があると楽しい、でも当たり前になると心が躍らない。きっと誰もが経験のある「たいくつ」ってやつだ。
そんな中、去年からアトリエキャビンの作家さんと話す機会が増えた。
「アトリエキャビン」とは、キャンプ場スウィートグラスを滞在場所とする一風変わったアーティスト・イン・レジデンスだ。
アーティスト・イン・レジデンス
作家(アーティスト)が一定期間滞在し、普段と異なる環境でその土地の風土や自然を体験しながら制作やリサーチを行うこと。
平日の3~5泊ほど、毎月1組(夏休みシーズンを除いて年10組)を招き、キャンプをしながら自由に創作と向き合う時間を提供している。
作家にとっての当たり前は、私にとって発見の連続でおもしろい。例えば、日本画に使われる色は鉱石などをすりつぶし、膠(にかわ:シカなどの皮を煮出した接着剤)でくっつける。
▼見せてもらった画材、絵の具というより色が付いた粉
負けじと猟場を案内する。キャンプ場の遊具で遊ぶ子どもの声が聞こえる距離感、その近さに驚かれる。膠の原料になるシカは(気づかないだけで)実はこんなに近くに住んでいる。
雪国でやっかいなのが、地面が凍ったり解けたりを繰り返し、地面がぬかるむこと。キャンプ場では胃がキリキリするほど悩みの種だが、ある作家は、朝凍った地面がキレイと、解かして煮詰めてぬかるみを画材に仕立てた。
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また、ある人は画材を忘れ、薪ストーブの炭や灰を使って絵を描いた(画材はしっかり準備し、玄関に置いてきたらしい)。「手元にあるもので、なんとかする」のがキャンプっぽい(忘れ物もキャンプあるある)。
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ときどき吹雪くような曇天のなか、厚い雲に隠れた太陽は、とても大きく見えると教えてくれた。
ほら、まだこんなにおもしろいものが日常に潜んでいる。作家の話を聞いて心躍る自分がいる。普段働くキャンプ場や日々暮らす北軽井沢で当たり前に見ている世界が、作家の目を通すと知らなかった側面が表れる。新しい発見があり生活が豊かになる、視点が増える感覚だ。
人それぞれ興味関心が異なる分、年10組もいれば「たいくつ」知らずでいられるはず。
当たり前の日常が、特別な日々に変わる
正直、アートは高くて買わないし、わかる人にはわかる世界で自分には関係ない分野だと思っていた。今まで、関係ないと食わず嫌いだった自分を殴ってやりたい。

同じ作家でも作風がガラリと変わるのが、またおもしろい。私のようにアート初心者は、アーティストトークや在廊中の作家から話を聞いたり、SNSをのぞいてみたり、その人の考え方や作品へ込めた想いを補足として取り入れるとより発見があり楽しめる。
日々挑戦を続ける作家の考えや人生観が表れる、その背景をまるごと知ると共感があり、身近に感じ、愛着がわく。(したことないけど)きっと推し活に似ている。
成果展のリーフレットに書かれた小さな文言がとてもステキだった。
「一部の作品は購入可能です。お気に入りの作品を見つけて、ぜひ日々の暮らしに取り入れてみてください。その時の自分の気持ちをそっと教えてくれたり、落ち着きや勇気付けをしてくれる、あなたにとって大切な存在になると思います。」
アートを取り入れると、ほんの少し特別な日常になる気がする。
誰もがだれかの視点になる
他人の視点を借りるために本や音楽、アートがあるのかもしれない。アーティストに限らず、誰もがだれかの他人の目だ。新しい発見があるとうれしく、だれかに言いたくなる。絵を描いたり、おしゃべりしたり、写真を見せたり…発見したことは、ぜひ、いろんな方法で近くの人に伝えて欲しい。
日常から離れ、北軽井沢で滞在したら、おもしろい発見がきっとあるだろう。
▼作家さんのSNSをのぞくと、コテージやキャビンでどんな過ごし方をしているのか、滞在の様子が見られる(高確率でごはんの写真が出てきて、どれもおいしそう!)
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ここでしか体験できない景色がある。作家が感じ取った追体験をできるかもしれない。
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去年キャンプ場に滞在した作家10組の成果展を前期と後期に分け開催。後期は7/4(金)~11/3(月)まで(ルオムの森洋館にて)。
北軽井沢から車で1時間ほど、2年に一度開催される「中之条ビエンナーレ」は、9/13(土)~10/13(月)、アトリエキャビンに参加したアーティストも多く出展している。
アトリエキャビン前期のアーティストトーク、アーカイブはルオムの森公式Instagramにて(話を聞くだけでも、いろいろ発見がありますよ)。
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