火を囲み、産業の「根っこ」に触れる
群馬県庁の若手職員が北軽井沢で重ねる対話
初秋を迎えた9月上旬、宿泊型研修施設「TAKIVIVA(タキビバ)」の焚火を囲むグループがあった。群馬県庁の産業経済部に所属する、入庁1〜3年目の若手職員たちだ。観光振興や人材育成など、普段は異なる課で働く若手が部署を横断して集うこの合宿は、メンバーの入れ替わりを経ながら今回で3度目を数える。前橋の県庁舎から車で約1時間半。業務の合間を縫って、彼らはなぜ北軽井沢へ足を運び、火を囲むのだろうか。

肩書きを外し、思考を深める場
組織の日常において、会議室という整然とした空間は効率や結論の導出が優先されやすい。役職や担当業務が無意識の前提となり、前提を疑う問いや、まとまりきらない思考をそのまま口にすることは容易ではない。屋外で火を囲む時間には、そうした囲いを自然と緩める作用があるのだろう。揺れる炎に視線を逃がしながら言葉を交わすことで、正面から向き合う議論とは異なる間が生まれ、思考に余白がもたらされる。
「会議室という堅い空間では出ないような柔らかい言葉が出て、リラックスして本音を話せる」と参加した職員が語るように、ここでは性急な結論を求めず、個々の問題意識を掘り下げる対話が続く。部署や年次の枠組みを越えて培われたフラットな関係性は、日常に戻った後も円滑な連携を支える基盤になるだろう。
1社で体現する、生きた産業の連鎖
若手職員たちがこの場所を訪れる理由は、チームビルディングにとどまらない。タキビバの背景にある、独自の地域経済モデルを間近で体感するためだ。資源の採取から加工・製造、そしてサービス提供まで、1次・2次・3次産業のすべてを自前で担い、自律的な循環を成立させている企業の実践は、全国的にも特徴的な実践と言える。近年語られる「6次産業化」や「サーキュラーエコノミー」といった概念も、机上で定義をなぞるだけでは本質的なリアリティは掴めない。すべての工程を身をもって引き受け、ひとつの生態系のように連動させている企業の現場に立つこと。それは、産業施策の未来を担う若手にとって、概念を血肉化する実践的な学びとなっているはずだ。
「ネイチャーポジティブ」を行動の言葉へ
群馬県は2024年12月、都道府県として全国で初めて「ぐんまネイチャーポジティブ宣言」を発表した。自然の損失を食い止め、回復軌道へ向かわせる基本戦略を進めている。庁内において戦略策定を担うのは主に環境森林部だが、その方針を企業活動へとつなぎ、持続可能な産業のかたちとして具現化していくうえでは、産業経済部の役割も大きい。群馬の主要産業である製造業や農業、観光業の基盤は、豊かな自然資本そのものだ。自然の持続性が失われれば、産業の基盤も損なわれる。だからこそ、ネイチャーポジティブを一過性の流行語にしてはならない。最前線に立つ若手職員自身が現場の感覚を伴って本質を捉え、事業者に届く実質的な言葉で伝えていく必要がある。今回の合宿は、自然と産業の関係性を根本から捉え直す契機となっていたのではないだろうか。
現場の息づかいから始まる、これからの地域づくり
机上で方針を組み立てるにとどまらず、自然環境と向き合いながら事業を営む現場に身を置き、同じ目線で対話を重ねること。産業と自然の持続的な関係を築く確かな糸口は、そうした現場の実感に根ざした対話の積み重ねの中にあるのだろう。群馬の自然と産業を、次の世代へどのように引き継いでいくのか。北軽井沢の夜、焚火の前で交わされた対話には、現場の生きた実感を手がかりに、地域の未来をともに見つめようとする若手職員たちの静かで確かな熱が息づいていた。